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噛み合わせが歯の寿命を決める? 最新研究と臨床現場からの警鐘

 

菊池歯科クリニック院長菊池です。

こんにちは。今日は、日々の診療で私が強く感じていることについてお話ししたいと思います。

歯科医院で長年診療をしていると、ある明確なパターンが見えてきます。それは、噛み合わせに問題がある方—特に「開咬(オープンバイト)」や「反対咬合(受け口)」の方は、どうしても奥歯の寿命が短くなるという事実です。

🏥 日常診療で感じること

「いつも奥歯だけが痛くなる」「奥歯がしみる」「奥歯ばかり治療している気がする」——こうした訴えをお持ちの患者さんの多くは、実は噛み合わせに特徴的なパターンがあります。開咬や反対咬合の方は、前歯がうまく噛み合っていないため、すべての負担が奥歯に集中してしまうのです。

 

この「臨床的な実感」は、私だけのものではありません。実は、科学的な研究データがこの事実を明確に裏付けています。今回は、2026年1月に発表されたばかりの東北大学の最新研究と、以前から歯科界で知られている8020達成者の分析データの両方をご紹介しながら、噛み合わせと歯の寿命の関係について詳しくお伝えします。

 

【最新研究】東北大学が1.7万人を解析した衝撃の結果

2026年1月8日、歯学分野の国際的な専門誌「Clinical Oral Investigations」に、東北大学大学院歯学研究科の沼崎研人助教らの研究グループによる重要な研究成果が発表されました。

📚 出典:東北大学大学院歯学研究科 プレスリリース(2026年1月)/ Clinical Oral Investigations

反対咬合(受け口)は歯20本未満リスクが1.48倍

東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査および三世代コホート調査(2013〜2017年)に参加した40歳以上の1万7,349人を対象に解析を実施。

主な研究結果:

1.48倍

この研究の意義は非常に大きいものがあります。これまで、歯を失う主な原因は「虫歯」と「歯周病」とされてきました。もちろんそれは事実ですが、この研究は「噛み合わせ(不正咬合)」も歯の喪失に大きく関係していることを、大規模なデータで科学的に証明したのです。

💡 この研究が示す重要なポイント

「矯正歯科治療が歯の喪失予防や健康寿命の延伸につながる可能性が示されました」と研究チームは述べています。つまり、矯正治療は見た目の改善だけでなく、将来の歯を守るための「予防医療」としての意味を持つということです。

対咬合(受け口)の人は、歯が20本未満であるリスクが1.48倍高いことが判明

さらに、特に奥歯の喪失が多いことが明らかになりました。

【従来の研究】8020達成者に開咬・反対咬合が「0%」という事実

東北大学の最新研究に加えて、もう一つ重要なデータをご紹介します。これは以前から歯科界で広く知られている研究結果で、8020推進財団や東京歯科大学などの調査に基づくものです。

「8020」とは、「80歳で20本以上の歯を残そう」という運動のこと。この8020を達成された方々のお口の中を詳しく調べた研究があります。

 

この結果は衝撃的です。80歳で20本以上の歯を残せた方の中に、反対咬合(受け口)や開咬(前歯が噛み合わない状態)の方が一人もいなかったのです。

⚠️ この「0%」が意味すること

これは「反対咬合や開咬の方は絶対に8020を達成できない」という意味ではありません。しかし、何も対策をしなければ、80歳になる前に多くの歯を失ってしまうリスクが非常に高いということを、このデータは示しています。

興味深いのは、「出っ歯(上顎前突)」の方は少数ながら8020を達成できているのに対し、反対咬合と開咬は0%だったという点です。これには明確な理由があります。

 

 

なぜ開咬・反対咬合だと歯を失いやすいのか?

最大の理由は、「アンテリアガイダンス」が機能しないことにあります。

アンテリアガイダンスとは?

私たちの歯には、本来それぞれ役割分担があります。

正常な噛み合わせでは、顎を前後左右に動かしたとき、まず前歯が当たります。すると奥歯は自然と離れ、過度な力がかからないようになっています。これが「アンテリアガイダンス(前方誘導)」です。

しかし、開咬や反対咬合では、この前歯による「守り」が働きません。その結果、噛む力、歯ぎしり、食いしばりのすべてが、無防備な奥歯に直接かかってしまうのです。

 

 

 

奥歯への過重負担が引き起こす3つのトラブル

奥歯に過度な力がかかり続けると、以下のようなトラブルが静かに、しかし確実に進行していきます。

1
マイクロクラック(歯の微細なヒビ)

目に見えないレベルの細かいヒビが歯に入ります。レントゲンにも映らないほど小さなヒビですが、そこから細菌が侵入する入り口になります。痛みがないため、ほとんどの方は気づきません。

2
クラック由来のむし歯・歯髄炎

ヒビの奥から細菌が侵入し、通常とは違うパターンでむし歯が進行します。表面は問題なく見えても、内部で広がっていることも。神経まで到達したり、最悪の場合は歯が真っ二つに割れて抜歯になることもあります。

3
咬合性外傷による歯周病の急速進行

歯をグラグラ揺さぶるような力が持続的にかかると、歯を支えている骨が通常よりも早く溶けてしまいます。これを「咬合性外傷」といいます。歯周病がある方は、その進行が加速されてしまいます。

🏥 臨床現場での実際

「奥歯だけ何度も治療している」「奥歯の被せ物がよく外れる・割れる」「奥歯だけがしみる」——こうした症状でお悩みの患者さんを診察すると、高い確率で開咬や反対咬合の傾向が見られます。そして多くの場合、ご本人は噛み合わせの問題に気づいていません。

未来を変えるために、今できること

ここまでお読みいただいて、不安になった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、大切なことをお伝えします。

✨ 重要なメッセージ

これらのデータは「将来必ず歯を失う」という予言ではありません。「何も対策をしなければリスクが高い」という警告です。適切な対策を行えば、歯の寿命を延ばすことは十分に可能です。

東北大学の研究チームも「矯正歯科治療が歯の喪失予防や健康寿命の延伸につながる可能性」を指摘しています。つまり、リスクを知った上で適切に対処すれば、未来は変えられるのです。

⭐ 理想的な対策

矯正治療で「守れる噛み合わせ」を作る

根本的な解決策は、歯列矯正によって前歯の噛み合わせを整え、「アンテリアガイダンス」を獲得することです。

矯正治療というと「見た目を良くするため」というイメージが強いかもしれません。しかし今回ご紹介した研究データが示すように、矯正治療には「将来の歯を守る」という予防医療としての意味があります。

年齢に関係なく、矯正治療は可能です。「予防としての矯正」という視点で、一度ご相談いただければと思います。

🛡️ 必須の対策

マウスピース(バイトプレート/ナイトガード)の使用

矯正治療が難しい場合でも、諦める必要はありません。

寝ている間の歯ぎしりや食いしばりから奥歯を守るために、厚みのある、しっかり調整されたマウスピース(ナイトガード/バイトプレート)の使用を強く推奨します。

これは単なる「歯を覆うカバー」ではありません。正しく設計されたマウスピースは、疑似的に「前歯で守る環境」を作り出し、奥歯への破壊的な力を分散させます。開咬や反対咬合の方にとって、これは歯の寿命を守るための重要な医療器具です。

📝 この記事のまとめ

  • 東北大学の最新研究(2026年):反対咬合の人は歯が20本未満になるリスクが1.48倍、特に奥歯の喪失が多い
  • 8020達成者の分析:反対咬合・開咬の達成者は0%(正常咬合は84%)
  • 原因は「アンテリアガイダンス」が機能せず、奥歯に過重負担がかかること
  • マイクロクラック → むし歯 → 歯周病進行という連鎖が起きやすい
  • 対策:矯正治療でアンテリアガイダンスを獲得する、または適切なマウスピースで奥歯を守る

🌟 最後に

「痛くないから大丈夫」——そう思っていても、過剰な力は毎日少しずつ、静かに歯を痛めつけています。

今回ご紹介した研究データは、決して皆さんを不安にさせるためのものではありません。「リスクを正しく知り、今から対策を始めれば、未来は変えられる」というメッセージです。

80歳になったとき、美味しいものを自分の歯で食べるために。
あなたの噛み合わせのリスクに合わせた「守り方」を、私たちと一緒に考えていきましょう。

噛み合わせについて気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

📚 参考文献・出典

1. 東北大学大学院歯学研究科 プレスリリース「反対咬合(受け口)は歯20本未満リスクが1.48倍」(2026年1月)

2. 沼崎研人ら, Clinical Oral Investigations(2026年1月8日オンライン掲載)

3. 8020推進財団による8020達成者の咬合調査

4. 茂木ら, 東京歯科大学による8020達成者の歯列・咬合に関する研究(2000年頃)

※この記事は患者さんへの啓発を目的としたものです。統計データには個人差があり、すべての方に当てはまるわけではありません。ご自身の噛み合わせや歯の状態については、担当の歯科医師にご相談ください。