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なぜ保険治療でもマイクロスコープを使うのか?

「え? 保険の治療でも顕微鏡を使ってくれるんですか?」

初めて当院に来られた患者さんから、こう驚かれることがあります。

マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)は、肉眼の最大20倍以上に拡大して治療を行うための機器です。

歯科医院によっては、自費治療の場合だけ使うところも少なくありません。「保険は肉眼、自費は顕微鏡」という使い分けです。

当院では、この使い分けをしていません。保険治療であっても、歯を削る処置ではできる限りマイクロスコープを使います。

今日は、その理由をお話しします。

## 肉眼で見えているもの、見えていないもの

まず、ひとつ知っていただきたいことがあります。

歯の治療で扱うスケールは、想像以上に小さいということです。

虫歯を削り取った後に残る健康な歯と虫歯の境目。

被せ物と歯の隙間。根っこの中にある神経の管。これらは0.1ミリ、時には0.05ミリの世界です。

肉眼で見えないわけではありません。

ベテランの歯科医師であれば、経験と感覚で対応できる場面も多くあります。実際、マイクロスコープがなかった時代にも、優れた治療は行われていました。

ただ、「見えている」と「はっきり見えている」には、大きな差があります。

たとえるなら、暗い部屋で懐中電灯を頼りに作業するのと、明るい部屋で作業するのとの違いです。どちらでも作業はできます。でも、明るい部屋のほうが確実に精度は上がる。見落としは減る。そういうことです。

## 「削りすぎない」ための道具

歯の治療で最も大切な原則のひとつは、**「健康な歯をできるだけ残す」**ことです。

虫歯になった部分は取り除かなければなりません。しかし、取り除きすぎれば、その分だけ歯は弱くなります。一度削った歯は、二度と元には戻りません。

マイクロスコープを使う最大のメリットは、虫歯と健康な歯の境界線がはっきり見えることです。「ここまでが虫歯、ここからが健康な歯」という判断を、感覚ではなく視覚で行える。

結果として、必要な分だけ削り、残せる歯を最大限残すことができます。

これは自費治療だから大事で、保険治療なら多少は大雑把でいい、という話ではないはずです。患者さんの歯の価値は、治療の会計方法で変わるものではありません。

## 「長持ちする治療」の出発点

もうひとつ、マイクロスコープが力を発揮する場面があります。

被せ物や詰め物を入れるとき、歯との「合い」が治療の寿命を大きく左右します。被せ物と歯の間にわずかな隙間があれば、そこから細菌が入り、数年後に内部で虫歯が再発します。いわゆる「二次虫歯」です。

日本の歯科治療で最も多いやり直しの原因が、この二次虫歯だと言われています。

マイクロスコープで拡大して歯を整えることで、被せ物との適合精度が上がります。

隙間が小さくなれば、細菌の侵入リスクが下がる。結果として、治療が長持ちする。

「長持ちする治療」は、患者さんにとって再治療の負担が減るということです。お金の面でも、時間の面でも、そして何より歯そのものの寿命という面でも。

## なぜ他の医院では使わないのか

ここまで読んで、「そんなにいいなら、なぜどこの歯医者でも使わないの?」と思われたかもしれません。

理由はいくつかあります。

まず、機器が高額であること。歯科用マイクロスコープは1台数百万円します。それに加えて、専用のライトや録画システムなどの周辺機器も必要です。

次に、技術の習得に時間がかかること。マイクロスコープを覗きながらの治療は、直接見て行う治療とはまったく別の技術です。鏡越しに手を動かすような感覚で、慣れるまでに相当な練習が必要です。

そして、時間がかかること。拡大して丁寧に処置する以上、肉眼で行うよりも1回の治療時間は長くなります。1日に診られる患者さんの数は、どうしても限られます。

つまり、コストが高く、習得が難しく、効率は落ちる。
経営的に考えれば、導入しない判断にも合理性はあります。

## それでも使う理由

では、なぜ当院ではそれでも使うのか。

答えはシンプルです。**患者さんの歯を、1本でも多く、1日でも長く守りたいからです。**

前回のブログで、私がプラモデル好きだったという話を書きました。細かい作業が好きな性格は、マイクロスコープとの相性が良かったのかもしれません。初めて覗いたとき、「ああ、今まで見えていなかったものが、こんなにあったのか」と衝撃を受けたことを覚えています。

あの日から、マイクロスコープは私の診療に欠かせない存在になりました。

保険だから手を抜く、自費だから丁寧にやる。そういう線引きは、私にはできません。目の前の患者さんの歯を、持てる技術と機器を使って最善の状態にする。それが歯科医師としての当たり前だと思っています。

## 「見える」ことが、信頼の第一歩

最後にひとつ、患者さんに知っていただきたいことがあります。

当院ではマイクロスコープで治療中の映像を録画し、治療後にお見せすることがあります。ご自身の歯がどうなっていて、どのように治療したのかを、実際の映像で確認していただけます。

「こんなに小さい虫歯だったんですね」
「ここまで丁寧にやってくれていたんですね」

映像をご覧になった患者さんから、こうした言葉をいただくことがあります。

百聞は一見にしかず。どれだけ言葉で説明するよりも、実際に見ていただくことが、理解と安心につながります。

次回のブログでは、この「見える化」の取り組みについて、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

菊池歯科クリニック 院長 菊池健志